僕は犬になりたい

2001年生まれ。男。大阪。趣味読書。フラフラすること。

忘れていたので、小説(小話)を書きました。

昨日のブログを忘れていたのでお恥ずかしいですが、小説を公開してみます。

この恥ずかし目でどうか許してください。

 

題名 罪人

 

 

 以下は、☓☓県の山中にある。精神病院に入院している佐渡シゲルの面談での警察に対する問答の内容を記録した議事録である。

記録者:角野ユウサク

 

 「佐渡シゲルは以下のように話した。

 私なんて本当に愚かで、いつだって周りの皆々様を振り回していたわけですが。もはや人外であるのに、少しばかりの良心が残っているせいで、自らの愚かさに自分が参らせられてしまうのです。全く情けないばかりで、人様に顔向けすることも、なりません。

 つまりは、この両手には多くのあなた方の、返り血がついていて真っ赤になってしまっているのであります。その赤さに自分で恐ろしくなってしまうのです。

 ああ、どうお詫びすれば良いでしょうか。償いなどできるはずがありますでしょうか?できるはずがないのであります。

 覚えていない?私が何をしたのかを…。そうでしたか、ええ。私はあなた方を刺したのであります。よもや、私の仕業と気づいておられない。今の私はただひたすらに懺悔の時を過ごしたいのであります。あなた方に詫びなければ、償わなければ、死ねないのであります。では順を追って説明させていただきたい。そして死が自らの救済となるのです。

 

第一の罪

 私は田舎の会社勤めの父と専業主婦の母の家に生まれた次男にございます。平成の時代にも相応しくなく、母は専業主婦であることに文句も言わず、亭主関白の家で育ちました。

 ただ兄は早うに亡くなっていて、私が長男のように育てられました。兄が10歳になる時に、階段から落ちて死んだのでございます。当時私は8歳でした。2歳上の兄は巨人に見えたのであります。偉い大人よりも偉く見えたわけであります。私は生まれつき、偉いものを認めることが出来ない病であります。ですから、兄も認められず8歳ながら兄を階段から突き落としたのであります。階段を登りきった兄を一押ししたのであります。

 兄はゆっくりと、ゆっくりと、死の段を落ちてゆきました。そして茶色い我が家の階段に鮮血を散らかしたのであります。初めて見た真紅の血は、今まで見たどんな色よりも美しく見えたのであります。私は、もちろんすぐに駆け下りました。生きていては作戦が失敗になってしまいますから、さもなくば私が捕まってしまいかねません。そんなことは、臨んでいないので脈を確認しました。その時です。兄は目をカッと開いて、こう言いました。

「オマエオマエオマエオマエオマエっ…」

 そのまま目を伏せて言を発しなくなりました。死んだとわかりました。大したことを言わない兄でしたが、私に命は儚いものだという大切なことを教えてくれました。

 まさか父も母も私が突き落としたなどと思わないように、私は大声で呼びました。赤い顔した父がみるみる青くなっていき、みるみる白くなっていきました。救急車を呼んでいましたが、無駄です。命は儚いのです。兄は教えてくれたから、私はそれがわかります。父や母がそれをわからないから、兄は死んだのです。

 これが私の第一の罪であります。

 

 もっとも、この死が私の罪の一部となることを気づいたのは、つい最近であります。ああ恐ろしいことなんだと、知らなかったのであります。父や兄の罪に比べれば私の罪など軽い、羽毛のようなものと思いますが、羽毛と無では異なりますので。償わなければなりません。どうか償わせていただきたい。

 おお。作り話だ。と。そうおっしゃいますか。たしかに、これは大した罪ではありませんね。作り話と思われても仕方ない。

 

第二の罪

 私の中学校は、隣の学校のすぐ近くにありました。私の学校は私立でありましたが、隣は公立の学校で市の給食センターが私の学校のすぐ近くにあったのでございます。私の通学路にそのセンターがありましたので、毎日登校の際にいい匂いがするのです。あまりにも良い匂いがするものですから、つい立ち止まって匂いを全身に浴びようとしてしまうのです。ある日にいつものようにして立ち止まっていると、お隣の中学の学生と思しき生徒が私を指さしてこう言うのです。

「やい。お金持ちのお坊ちゃまが、弁当に飽きてしまって給食なんざに憧れていやがる。そんなに羨ましいなら代わってやってやらないことはないぞ。」

 なんてつまらない提案なんだと思いました。私は偉そうな人間と同じかそれ以上に、自分の身分をわきまえない人が嫌いですから、

「貧乏人のせがれの分際で、偉い口を聞くんでない。生まれの不幸は、死の不幸と言うぞ。」

と言い返したのです。

「なにを言っている。不幸不幸と言えば、お前だろう。金にしか幸せが見いだせぬのは人の恥である。貧乏人の我らにも、幸せがある。」

こう貧乏人のせがれは、申すのです。ほう。なるほど。貧乏人の幸せとはなんだろうか?いやそんなもの学んだことはない。存在せぬものを申す馬鹿はこの世にいらぬ。あるいは、馬鹿が不幸であると、貧乏が不幸であると教えてやらねばならぬ。そう考えたのです。

 私はその給食センターに毎朝8時きっかりにトラックが入ってきて積み下ろしをするのを知っていましたので、その前にトラックの運転手の手に毒を盛れば給食にも毒が入るだろうと考えたのであります。それから私は冬まで待ちました。

 冬の雪が降る日に、実行を心に決めたのであります。雪の日ならば手袋がびっしょり濡れていても不審がられることはありませんから。びっしょり濡らした手袋のしたに、ビニール手袋をはめてその手袋にぼっとり青酸カリを含ませるのであります。そうしてトラックの運転手のところに行って話しかけるのであります。

「オジサマ。これをご覧になってよ。」

「ドウシタ。ボウヤ。コリャアヒデェ。」

「ダッテサ、雪が降るんだもの。ついはしゃいでしまうではありませんか。」

「ナルホド。ソレナラシカタナイネ。」

「ソウデショウ。そうでしょう。でも少しばかり冷たくって、手を温めてはくれないでしょうか?」

「オ、ドウレ。カシテゴラン。」

そうして彼は、私の両の手を彼の両の手で挟んでまるでサンドイッチにしてくださいました。生きている温度でありました。

「オジサマ。ごめんなさい。ありがとう。」

私はそれだけ伝えて手を振ってそこいらの食品に毒の液を振りかけたんです。

 またしても貧乏人のせがれ達は、命なんて儚いものだと私に教えてくれました。なにやら新聞が申すには、

「トラックの運転手が殺したと見て警察は、捜査しているが、被疑者は食中毒で死亡。被疑者死亡で捜査は打ち切り。」

 彼らも誰も命の儚さをわかっていない。そこいらの中坊の仕掛けも見抜けぬなら、こんな世の中にいつか私が教えてやらねばならない。そう考えたのであります。

 彼らも罪を是非償って頂きたい。大人がそうやって、身分や命を子供に教えないから子どもたちの命は、奪われたのだ。私と罪を償ってほしい。

 これが第二の罪です。

 

 どうして震えておられますか。ええ、私の罪の深さに震えておられますかな。そうでしょう。そうでしょう。私は生きていてはいけない人間であります。私以上の罪人達は生きているのに、私が罪を感じるのはおかしいと感じておりました。しかし、それは、間違っていました。私は私自身の罪しか償うことができません。誰かの罪を償わせるなど、自惚れも甚だしい話だったのにございます。

 

第三の罪

 高校生にもなりますと、私の中にも自制心とやらが生まれ始めておりました。ちょうど2年の春に初めてのガールフレンドができたのであります。彼女は、非常にか弱く、美しいものに思えました。私は彼女を愛しておりましたし、私も愛されておりました。彼女は日々を私のために使い、私は、日々彼女に捧げました。そんなある日のことであります。

 彼女は、地域では有名な御家の娘でしたから、それは立派なお屋敷に住んでいたので、部屋を余らしておりましたので私は、よくそこにお邪魔しておりました。その日もいつものように彼女のお家にお邪魔しておりました。

「あたし、このおうちを早く飛び出して大きな世界に飛び出してしまいたいわ。」

 彼女はそう申したのです。

「今の生活がつまらないというのかい?」

「そうは、言ってませんわ。ただもっと広い世界を知ったら新しいものも見え付と思いますの。」

「広い世界なんて知って何になると言うんだい。そんなものは、君を惑わず毒ガスの霧のようなものだと、僕は思うよ。」

「どうしてあなたは、そう言うのかしら。私にはちっともわかなくってよ。私にはこの世界は美しいものに思えるわ。きっと今以上に美しいものがまだまだあるはずよ。」

「僕と君の二人だけの世界で、十分じゃないと言うのかい。」

「いいえ。そうではないわ。あなたと私の世界は、他の何者にも邪魔されることはきっとないはずだわ。何者にも負けない。そうでなくって?」

「君はわかっていないようだ。外には多くの恐怖が君を待ち構えているというのに。」

「あなたこそ。きっと今にわかるわ。」

彼女は僕の真反対を見てうつむいてしまった。そうやって僕と彼女には大きな溝ができてしまいました。その日僕は黙って彼女の家を出ました。そうして山奥の小屋を見に行きました。その小屋は、私が籠もって〝実験〟をしている小屋で厳重に3重の鍵がかかっています。中は薄暗くて湿気ているが静かで落ち着ける空間でふ。そこで僕は3日考えたのです。彼女のいう世界の美しさと、私の恐怖について。でも私は、恐怖に打ち勝つことはできなかった。

 だから次の日彼女に睡眠薬を飲ませてその小屋まで運びました。外から鍵をかけて〝実験〟でしたように、手錠をかけて閉じ込めておいたのです。これで、彼女と僕の美しい夢の世界だけを作り上げました。本当は、僕も外の世界とは関わりたくないけども、彼女の食事や必需品は私が街から、家から運んできました。みるみる彼女は人がヒトであった頃のように、嘘偽りない、美しい本来の姿を取り戻しました。初めは、大きな声で何かを言っていましたが、最後には私が小屋に訪れるとぱあっと顔を明るくして、

「アエテ。ウレシイ。アイシテイル。」

そう言うので、

「アア。キミハ、なんて美しい。今日のご飯だ。」

と僕も返すのです。

 でもある日恐ろしいことが起きたのです。街で彼女のための食事を買い出した時に、彼女とそっくりの女性を見たのです。瞬く間に恋をしたのです。名前も同じ〝リア〟と言いました。僕は感激と同時に小屋にいるリアのことなどどうでも良くなってしまったのです。私の中の悪魔が外界によって呼び覚まされてしまった恐ろしい瞬間でした。私はそのことに気づいたのは一週間も小屋に行ってないことに気づいた時でした。小屋に入れば彼女は、いなくなってしまっていました。私は絶望しました。ああ外界が私と彼女の世界を壊した瞬間だと察したのです。私は瞬く間に街に降りたのです。リアという女性を見かけるのをじっと待ちました。そうしたらその女性。リアは、男と仲良さそうに腕を組んでおりました。私はとうとう気がどうにかなりそうでした。

 そして私はリアのことを、一ヶ月尾行しました。彼女がしょっちゅう家出をすること、なにかに常に怯えていること。だから夜のうちに彼女を連れ出すなんてわけがないことでした。いつものように置き手紙でもおいておけば、家族は、きっといつもの家出だと思うに違いありません。

〝ワタシハ、シバラク、イエヲ、アケマス。サガサナイデ。ニゲテイル。ドウカゴブジデ。〟

 これが彼女のいつもの手紙の言葉でしたから、そのしきたりに習ったまでであります。そうして彼女をそっと連れ出して山小屋に閉じ込めたのであります。そして私は、火を放ちました。私の愛する人リアと私の世界を汚した存在をなかったことにするためです。そしてきっと私が死ぬ時に彼女を私が思うならば、私は彼女と一つになれましょう。

 この世界は、お互いに干渉し過ぎだと思います。お互いをお互いに守るも傷つけるも委ね過ぎだと私は思うのです。だからいっそ、全て燃やして破壊してなくしてしまえばいいんでないかと思います。でも、私は気づいたのです。ワタシハ、オーディエンスではなくて、この歪んだ世界の構成要素の一つなのですね。あなたも、ワタクシも、この歪みを正す力を持つものです。あなたにも罪はあるのですよ。

 

 意味がわからない?ええ。そうでしょう。私もそうでしたから。チガウッテ何とチガウのです。ナニガ?ワカラナイです。まあ落ち着いてください。ワタシヲ殴りトバしてもナニモありません。

 次で最後ですから。

 

第四の罪

 ワタシハ、リアを失ってナニモ見えなくなりました。視界ではありません。このセカイが見えなくナッタのです。トギレ途切れ見える世界なら汚い限りでした。シブヤの町にオチルゴミ。

 そしてヒト。アア。ナニヨリもケガラワシイ。ヒトガ。アア。ワタシヲ。クルシメル。ワタシガ。ケガラワシイ。カガミにウツルジブンヨリモ、コノヨゴレキッタ、テヲ。ココロヲ。ソレラがキタナクッテ。キタナクッテ。フロニハイッテモ。アルコールデ、フイテモ。トレナイ、コノ血ガ。ワタシヲ死二、イザナウ。

 デモ、ワタシダケガ、血ニ、ヨゴレテルワケデハ、ナイ。アナタモ。ソウ!アナタモォ゙!アナタダッテ、アナタモ、罪人ナノダ。トメラレナイ。イツカ死ヌ。デモ、イマ!死ヌノデス。アナタノオコナイガ、リアヲ、殺シタ。エエイ。死ネ。死ネ。死ネ。死ネ。死ネ。死ネ。死ネ。死ネ。死ネ。死ネ。死ネ。死ネ。死ネ。死ネ。死ネ。死ネ。死ネ。死ネ。死ネ。死ネ。死ネ。死ネ。死ネ。死ネ。

オオ。アリガトウ。アリガトウ。アリガトウ。アリガトウ。アリガトウ。アリガトウ。アリガトウ。アリガトウ。アリガトウ。アリガトウ。アリガトウ。アリガトウ。

 サテ。ワタクシモ。ソチラ二ムカイマス。リアサン。アイシテイマス。」

 

 面談を行った部屋は、椅子で何度も殴り殺された警官。議事録を手元に置き、ボールペンを首に突き刺した佐渡シゲル。その首には何度も突き刺した跡があった。

 

第五の罪

佐渡シゲル。彼の死が私の第五の罪である。

 ワタシガ罪人デアル。ワタシモ死ヌ。死ヌ。死ヌ。死ヌ。死ヌ。死ヌ。死ヌ。死ヌ。死ヌ。死ヌ。死ヌ。死ヌ。死ヌ。死ヌ。死ヌ。死ヌ。死ヌ。死ヌ。死ヌ。死ヌ。死ヌ。

 

第六の罪

彼の死。これは、あなたの罪。